2003年「第13回アジア太平洋防錆学会国際会議」での論文発表

論文

学会概要

2010年7月17日~23日に大阪大学で開催された「第13回アジア太平洋防錆学会国際会議」で発表されたNMR現象による配管腐食・防食技術の論文になります。

その研究発表の原文(英文)の日本語訳を以下より紹介いたします。

アジア太平洋防錆国際会議 記事

NMR現象による配管腐食防食技術

現在、給水・給湯・空調配管内に発生する赤錆問題に対して元来その腐食対策として配管延命装置や配管更生工事が行われてきている。この様な中、配管内を流れる水分子に対して核磁気共鳴現象を起こさせる事により配管中に多量の還元電子を発生させ赤錆を急速に不動態の黒錆に還元させる事により、配管内の腐食を防止する技術について研究を行った。
通常、配管内を流れる水分子は大きな固まりを形成しており運動エネルギーも低く、分子運動による摩擦エネルギーの発生もほとんどない。そこでこの水分子を構成している水素の核磁気共鳴現象の性質を利用して電磁波を吸収させる事により水を励起状態にし、分子運動を向上させ、圧送ポンプ等のエネルギーで水を動かし摩擦エネルギーの発生を促進させ、電子を発生させた。
この電子が赤錆(オキシ水酸化鉄)に還元反応を起こし、黒錆(マグネタイト)へと変化する事を確認した。
この試験方法として、黒錆の重量変化による測定を行った。通常、鋼管を使用している建物では配管内に赤錆が発生する。そこで水が接触する赤錆表面に発生している黒錆の変化量を測定する事によりその配管更生技術を確認した所、黒錆の重量が2.2%から72.9へと70.7%増加している事が確認された。
この事はNMR現象により水分子を励起状態にし、圧送ポンプのエネルギーで水を動かし、その摩擦エネルギーにより発生した電子で赤錆表面が急速に黒錆に還元されたと言える。
このNMR現象により急速に赤錆を黒錆に還元させる配管更生技術は、元来の配管延命装置や配管更生工事に変わり配管内腐食劣化を止める今後の配管内赤錆防食の有効な技術の一つと考えられる。

緒言

現在、給水・給湯・空調配管内に発生する赤錆問題に対して従来その腐食対策として酸化防止剤、各種配管延命装置の使用や赤錆を除去した後にエポキシ樹脂を塗布する配管更生、並びに古い管を新管に交換する更新工事が行われてきている。しかしながら配管更生、更新工事は工事中施設の使用を休止する必要がある事と費用が高いという問題があった。また従来の配管延命装置は完全に赤錆の発生を停止させたり、既に発生している赤錆閉塞の解消はできなかった。1)
この様な中、オキシ水酸化鉄をマグネタイト化させる技術の実験を行った。
通常、水分子は水素結合によって凝集結合体を構成しているが水分子の水素原子核に核磁気共鳴現象を起こさせる事により励起状態にして水素結合をしにくい状態にし、水の凝集体を小さくし、その励起状態の水を圧送ポンプ等の力で動かすと水分子同士の摩擦により発生する電子でオキシ水酸化鉄をマグネタイトに還元させた。
この確認方法として水質検査による鉄イオン値の溶出量及び配管内表面のマグネタイトの含有量を測定し本研究を行った。

実験方法

オキシ水酸化鉄がマグネタイトに還元した事を確認する試験方法として、水との接触面の赤錆(オキシ水酸化鉄)が発生する亜鉛めっき鋼管を給水管或いは空調冷温水管として使用している実際の建物内の給水管或いは空調冷温水管に核磁気共鳴現象を起こさせる装置を取り付け、技術の確認試験を行った。

2-1.一過性の水が流れる給水管内の赤錆(FeO(OH))がマグネタイト(Fe3O4)に還元された事を調べる方法

2-1-①.(装置の取付位置)
高架水槽或いは圧送ポンプ二次側配管(内径75~200mm)にNMR現象を水分子中の水素の原子核に起こす装置を取付ける。

2-1-②.(測定用サンプル水の採水方法)
装置取付位置より 100~500m 離れた位置に存在する建物内の洗面台蛇口
より、夜間 12 時間以上配管内に滞留している滞留水を、朝一番最初に使用開始時に公的試験機関使用の試料容器を使用し500ml採水する。

2-1-③.(採水期間)
採水は装置設置1~3日前及び装置設置2週間後より4ヶ月後までの期間定期的に2ないし3回採水を行う。

2-1-④.(全鉄イオンの測定法)
各採水サンプル中の全鉄イオン量の測定はICP発光分光分析法とフレームレス原子吸光光度法によって行った。

2-1-⑤.(反応の確認方法)
採水中の全鉄イオン量が装置設置前に比べ設置後に大幅低下する事により給水管内部に発生した水溶性の赤錆(FeO(OH))の水との接触面が不溶性のマグネタイト(Fe3O4)に変化した事を確認した。

2-2.同じ水が循環している空調冷温水管内の赤錆(FeO(OH))がマグネタイト(Fe3O4)に還元された事を調べる方法

2-2-①.(装置の取付位置)
循環している空調冷温水配管の全ての冷温水が通過する冷温水発生機の二次側配管(内径200mm)にNMR現象を水分子中の水素の原子核に起こす装置を取付ける。

2-2-②.(測定用サンプル錆の採取方法)
装置取付位置より200m 以上離れた空調冷温水枝管(内径80mm)を長さ30cm 抜管し、取出した替わりに新管を入れカップリングで固定する。亜鉛めっき鋼管の内面に発生している赤錆の表面を取出し、抜管から1時間以内に金属ブラシで擦り、約100cm2の面積から1g以上測定用サンプル錆を採取した。2 回目以降 4 回目までの抜管は前回取除いた管の隣を各回共長さ約 10cm切取り、代わりに前回までの分を含めた全部の抜管した長さの新管を入れ、カップリングで固定する。サンプル錆の採取は1回目と同様にして行った。

2-2-③.(サンプル錆の採取期間)サンプル錆は装置設置前と設置3ヶ月後、6ヶ月後、12ヶ月後の計4回採取した。

2-2-④.(錆中のマグネタイトの質量分析方法)2)
1.錆試料検体を乳鉢で軽く砕き、ふるい(100μm程度)にかける。
2.100mL ビーカーにふるいを通過した試料 約0.5g(小数点以下第4位まで計測可能な天秤を使用する)を正確に計り取る。
3.精製水30mLを加え、100mLビーカーごと超音波洗浄器に30秒かける。
4.100mLビーカー底に磁石(3000G程度)を付着させて、手振りにより撹拌した後上澄み液を200mLビーカーに移す。(上澄み液を移す際にビーカー底に残った液は、駒込ピペットを使用する)
5.上記3~4の操作を3回繰返し行う。
6.上澄み液を集めた200mLビーカー底に磁石を付着させて、手振りにより撹拌した後、上澄み液を捨てる。
7.200mLビーカー底に残った黒錆を少量の精製水で100mLビーカーに戻す。
8.上記3~7の操作を5回繰返し行う。
9.上澄み液を除いた精製黒錆にメタノール5mLを加え、100mLビーカー底に磁石を付着させて手振りにより撹拌した後、上澄み液を捨てる。この操作を2回繰返し行う。
10. 真空乾燥機で100mLビーカーごと減圧乾燥(室温、30分)し、精製黒錆の乾燥重量を正確に計り取る。
11. 下式-1 より錆試料検体中の黒錆重量比を出し、錆試料中における黒錆の質量とする。

2-2-⑤.(反応の確認方法)
亜鉛めっき鋼管製の空調冷温水配管内部に発生した赤錆(FeO(OH))がマグネタイト(Fe3O4)に還元された場合、水と接触している表面の赤錆中におけるマグネタイト量が増加するので、その増加により赤錆(FeO(OH))がマグネタイト(Fe3O4)に還元された事を確認した。

結果

3-1.一過性の水が流れる給水管内赤錆(FeO(OH))のマグネタイト(Fe3O4)への変化結果

3-1-①.(北海道工業試験場建物内の給水管よりの採水中の全鉄イオン値測定結果)

本試験場所建物の高架水槽二次側亜鉛めっき鋼管給水管(内径100mm)にNMR現象発生装置を取付け、その採水の水質検査試験結果を以下Table.1 に示す。装置取付け前の1階トイレ手洗蛇口より採水の水質検査3回分の平均値は鉄イオン値 0.789mg/l と給水管内に赤錆(FeO(OH))が発生しており、その水中への溶出が確認された。しかし装置設置2ヶ月後での採水の鉄イオン値は0.423mg/l、更に設置4ヵ月後の採水の水質検査結果では鉄イオン値は 0.262mg/l と配管内の赤錆(FeO(OH))の溶出量は期間の経過と共に低下した。

鉄イオン値(mg/㍑)
設置前(3回分平均)0.789
設置2ヶ月後0.423
設置4ヶ月後0.262

<Table.1>
<Graph.1>

3-1-②.(日本大学工学部建物内の給水管よりの採水中の全鉄イオン値測定
結果)

本試験場所の建物2棟8号館、9号館の共通給水本管亜鉛めっき鋼管(内径80mm)にNMR現象発生装置を取付け、その採水の水質検査試験結果を以下Table.2 に示す。装置取付け前の各建物トイレ、洗面蛇口より採水の水質検査では 8 号館での鉄イオン値が7.8mg/l、9 号館での鉄イオン値が1.2mg/l と給水管内に赤錆(FeO(OH))が発生しており、その水中への流出が大変多い事が確認された。しかし設置4週間後、8号館では鉄イオン値が0.11mg/l、9 号館では鉄イオン値が0.04mg/l と下がり、更に設置6週間後、8 号館では鉄イオン値が0.03mg/l、9号館では鉄イオン値が0.01mg/l以下と配管内赤錆(FeO(OH))の溶出量は期間の経過と共に急速に低下した。

8 号館
鉄イオン値(mg/㍑)
9 号館
鉄イオン値(mg/㍑)
設置前7.81.2
設置4週間後0.110.04
設置6週間後0.030.01 以下

<Table.2>

<Graph.2>

3-1-③.(日本赤十字社医療センター病院建物内の給水管よりの採水中の全
鉄イオン値測定結果)

本試験場所の建物の高架水槽二次側亜鉛めっき鋼管給水管(内径200mm)にNMR現象発生装置を取付け、その採水の水質検査試験結果を以下Table.3 に示す。装置取付け前の外来乳幼児室洗面蛇口より採水の水質検査結果では鉄イオン値2.00mg/l と給水管内に赤錆(FeO(OH))が発生しており、その水中への流出が大変多い事が確認された。しかし設置2週間後での採水の鉄イオン値は 0.48mg/l、設置 4 週間後での採水の鉄イオン値は0.49mg/l、更に装置設置 6 週間後の採水の水質検査結果では鉄イオン値は0.27mg/l と配管内の赤錆(FeO(OH))の溶出量は期間の経過と共に急速に低下した。

鉄イオン値(mg/㍑)
設置前2.00
設置2週間後0.48
設置4週間後0.49
設置6週間後0.27

<Table.3>

<Graph.3>

3-2.同じ水が循環している空調冷温水管内の赤錆(FeO(OH))のマグネタイト
(Fe3O4)への変化結果
3-2-①.(管理センター内建物の空調冷温水管より採取した錆中のマグネタ
イト量測定結果)
本試験場所の建物の空調冷温水管の全ての冷温水が通過する冷温水発生機の二次側亜鉛めっき鋼管(内径 200mm)にNMR現象発生装置を取付け、その枝管配管内錆中のマグネタイト質量分析結果を以下Table.4に示す。装置取付け前の冷温水枝管(内径80mm)内に発生している赤錆の水との接触面より採取した錆中のマグネタイト含有量は 2.2%であった。しかし装置設置3ヶ月後で錆中のマグネタイト含有量は14.4%となり、設置6ヶ月後では錆中のマグネタイト含有量は53.4%、そして設置12ヶ月後では錆中のマグネタイト含有量が設置前に比べ、絶対量で70.7%増加し、72.9%まで急速に増加している事が確認できた。

黒錆量(%)
設置前2.2
設置3ヶ月後14.4
設置6ヶ月後53.4
設置12ヶ月後72.9
黒錆増加量70.7

<Table.3>

<Graph.4>

考察

給水管及び空調冷温水管に多用されている亜鉛めっき鋼管は古くなると亜鉛めっき層が剥れ、鋼が水とその中に溶けている溶存酸素により酸化され、赤錆(FeO(OH))を形成する事は良く知られている。この赤錆(FeO(OH))は水に溶けたり、容易に分散する為、長時間滞留している水の水中の鉄イオン値が増加し、赤色を呈する為、昔から赤水問題として存在しているが、根本的な解決方法が今日まで見出せなかった。

本試験方法は、その赤錆(FeO(OH))を水に不溶性のマグネタイト(Fe3O4)に変化させ、赤水問題を解決する 3) と共に鉄製配管でも水中の水素の原子核をNMR現象でスピンさせ、水の凝集状態を励起状態にし、ポンプ等の力で中の水を移動させれば赤錆(FeO(OH))の発生を抑制できる事を示した。

尚、赤錆(FeO(OH))のマグネタイト(Fe3O4)への還元反応の式は以下の式が考えられる。4) 5)
6FeO(OH) + 2e-
→ 2Fe3O4 + 2H2O + 2OH-

結論

本試験を実施した3ヶ所の亜鉛めっき鋼管製の給水管中の赤錆(FeO(OH))の水中への溶出及び分散を徐々に減少させていき、最終的に配管内に赤錆が発生していない状態と同じレベルまで鉄イオン値を低下させた事は(FeO(OH))の構造を変化させ水に不溶性で分散し難い固い結晶に変化させた事を示している。

この性質の鉄の化合物はマグネタイト(Fe3O4)しか考えられず 3)
この還元反応が起きた事を証明していると同時に連続的に鉄イオン値が減少し続けた事から新規の赤錆(FeO(OH))の発生も防いでいる事を証明した。
連続して新しい水が供給される給水管と同様、同じ水が循環している空調冷温水管でもこの赤錆(FeO(OH))のマグネタイト(Fe3O4)への還元反応は起こり、この事は直接配管中の赤錆の中のマグネタイト含有量が増加した事から立証された。

以上の事からNMR現象を利用して水分子の凝集を励起状態にすると、その水をポンプ力や重力のエネルギーで動かす事により赤錆(FeO(OH))をマグネタイト(Fe3O4)に還元させ、配管内の防錆を行う事ができる事を立証した。

謝辞

本研究を行うに当り、北海道大学名誉教授 勇田敏男先生、北海道工業試験場及び日本大学工学部、そして日本赤十字社医療センター、並びに財団法人若葉台管理センターの関係者の御協力、御指導に感謝を致します。


参考文献

1) 真柄泰基:建築物内給排水管理に係わる新技術開発指針作成及びその評価体系の設定に関する研究報告書(1988)
2)特願2003-031823「鉄錆の黒錆質量分析方法」
出願人:日本システム企画株式会社
3)H.H.ユーリック著、岡本剛監修、松田精吾、松島巌共訳:「腐食反応とその
抑制」(1999)
4) An electrochemical study of phase transformations in rust layers
M.Startman. et al., Corrosion Sci., 23
, 969(1983)
5) Formation of magnetite in the presence of ferric oxyhydroxides
T.Ishikawa, et al., Corrosion Sci., 40
,1239(1998)

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